ラッコ(イタチ科)のふしぎを、三つ順番にたどります。石で貝を割ること、密な毛で冷たい海でも凍えないこと、手をつないで眠ること。どれも、海でくらすラッコならではの姿です。
石で貝を割る:胸の上が、ラッコの作業台
貝を石で割るしぐさは、ラッコの姿としてよく知られています。
かたい殻の中の身を食べるために、ラッコは石を道具にします。胸の上を作業台にして、貝を石に打ちつけるのです。
ラッコは海に浮かんだまま、おなかから胸のあたりに石をのせ、両手でつかんだ貝をそこへ打ちつけて割ります。岩にくっついたアワビなどをはがすときも、石で叩くことがあるとされています。
わきの下の皮膚のたるみがポケットのようになっていて、獲物や石をしまっておくことがあるとされています。
海の上でも、道具をしまう場所を持っているのです。作業台とポケットを合わせて、ラッコは海の上で食事の支度をしているようにも見えます。
では、どうして道具が必要なのでしょうか。理由は、ラッコの体のつくりにあります。
ラッコは脂肪の層がほとんどなく、毛の保温力で冷たい海の中の体温を守っています。そのぶん、体の中でたくさんエネルギーを作る必要があり、1日に体重の2〜3割ほどの量を食べるといわれています。貝やウニ、カニを効率よく食べるうえで、石は大きな助けになっているようです。
石を使って貝を割る行動は、ラッコの大きな特徴として知られています。同じカワウソ亜科のコツメカワウソは、前足で泥や石の下をさぐって、エビやカニなどを見つけます。
同じカワウソの仲間でも、食べものの見つけ方や食べ方は、それぞれにちがいます。
毛が密で、冷たい海でも凍えない
前の節で、ラッコは脂肪の層がほとんどないとお伝えしました。では、冷たい海の中で、どうやって体をあたためているのでしょうか。その答えが、毛です。
ラッコが冷たい海でも凍えないのは、とても密な毛が、水を通しにくい空気の層をつくっているため、と考えられています。脂肪がほとんどない体を、毛が守っているのです。
クジラやアザラシなど海の哺乳類の多くは、厚い皮下脂肪で体を守っています。ラッコは、密生した毛だけで体温を保っています。生息する海の水温は10℃以下になることもあるとされます。
毛がどれくらい密なのか、数字で見てみましょう。
下毛のあいだに空気がたまり、肌まで水がしみこみにくくなると考えられています。
人の髪の毛が全体で10万本ほどとされるのに対し、ラッコは1平方センチメートルあたりの下毛だけで10万本以上とされます。毛の密度は、人とくらべものにならないほどです。ふわふわに見える毛は、ラッコにとって、体を守る大切な上着のようなものです。
空気の層は、毛が汚れたりもつれたりするとくずれてしまいます。そのためラッコは、1日の多くの時間を毛づくろいに使います。毛が濡れて体温が下がると命に関わるため、保温のために欠かせない行動です。毛づくろいは、命を守る仕事なのです。水族館や写真で見るときは、次のしぐさに注目してみてください。
- 体をくるりと回して、おなかやわきの毛をこすっている
- 前足でていねいになでて、毛を整えている
ラッコの代謝は、同じくらいの大きさの陸の哺乳類のおよそ2〜3倍といわれます。毛で熱を逃がさず、食事で熱をつくる。その両方で冷たい海を生き抜いています。
手をつないで眠る
石で貝を割り、毛づくろいをしたラッコは、海の上でひと休みします。ここで見られるのが、手をつないで眠る、かわいらしい姿です。
ラッコが手をつないで眠るのは、眠っているあいだに波や潮に流されて、仲間とはぐれてしまうのを防ぐためではないか、といわれています。ただ、はっきりした理由は分かっていません。
ラッコは海の上であおむけに浮かんで眠ります。波や潮の流れがあるので、何もしないと少しずつ流されてしまいます。そこで、仲間や家族と手をつなぐのではないか、と考えられています。
野生のラッコは、長くのびる海藻に体を巻きつけて、流されないようにして休む姿がよく知られています。水族館でも、手をつなぐ姿が見られることがあります。
ラッコは休むとき、同じ性別の仲間とゆるやかに集まることがあります。この集まりは、いかだ(ラフト)と呼ばれ、10頭から100頭ほどになる場合があるとされています。
手をつなぐ姿も、海藻を巻く姿も、いかだで休む姿も、流されないための知恵と考えられています。ゆらゆらと波にゆれる海の上で、ラッコは仲間といっしょに休んでいます。
イタチ科の仲間のおこじょ
ここまで、ラッコの話をしてきました。ラッコと同じイタチ科の仲間に、おこじょ(オコジョ)がいます。
海のラッコとはくらす場所がちがいますが、おこじょにも、寒さや岩場と上手につきあう姿があります。
おこじょは道具を使いませんが、岩場のすき間に入り込んで小さな獲物を追います。岩のすき間などに巣をつくって子育てをするとされます。寒い山では、冬毛をまとって冬を越します。日本では、ホンドオコジョは本州の中部から北の高い山、エゾオコジョは北海道にすむとされています。
ラッコを見られる機会が少なくなっています
ここまで読んで、ラッコの姿を見てみたくなった方もいるかもしれません。ただ、見られる機会は少なくなっています。
ラッコは絶滅の危険が高い動物とされ、日本の水族館で飼育されている数も、かつてと比べて大きく減りました。石で貝を割る姿は、野生のラッコでよく知られています。日本の水族館では、いまは鳥羽水族館の2頭だけになり、鳥羽水族館の解説では、飼育下では石を使えない環境にしているそうです。手をつなぐ姿を見られる機会も、少なくなっています。
石で貝を割る胸の作業台、冷たい海を耐える密な毛、手をつないで眠る知恵。ラッコのふしぎは、どれも海の上でくらすための姿として知られています。写真や映像で見るときは、手もとや毛づくろいのしぐさにも、ぜひ注目してみてください。
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